ふと空いた時間にふらりと立ち寄ったり、一緒にいる誰かと話をするために入ったりと...

純喫茶のおいしさって?

 ふと空いた時間にふらりと立ち寄ったり、一緒にいる誰かと話をするために入ったりと、日常のさまざまなところで寛ぎのひとときを提供してくれる「純喫茶」。どなたも、一度は入ったことがあるのではないでしょうか?ゆったりとしたテーブルとふかふかのソファ、快適な温度に保たれた店内、席まで注文を取りに来て下さるフルサービスと、お手頃価格のメニューたち。お店によって、自由に読むことができる雑誌や新聞が置いてあるのも魅力のひとつです。

 お気に入りの席に腰掛けてぐるりと見渡せば、思わず懐かしくなるようなポスターが貼ってあったり、幼い頃に見たことがあるような小物たちが並んでいたり、ゴージャスなシャンデリアが天井から煌びやかに照らしてくれていたり。普段はあまり気にしない床や壁の柄もよく見てみると、とても凝ったデザインであることに気付きます。

 「純喫茶」。それは、お店の方たちの好きなものや情熱、想いがぎゅっとこめられた宝箱のような空間。100人の店主がいれば100個の個性があって、隅々まで眺めたくなってしまう「昭和博物館」のような場所です。そんな貴重なところへ、珈琲一杯の価格で覗きに行かせてもらえるしあわせ。朝昼晩と時間を問わず、気軽に立ち寄れるところも魅力的です。珈琲のふんわりと漂う香りを吸い込んでうっとりとした気持ちになったとき、自分が大人になったのを感じます。

 一言ではその楽しさを語ることができない「純喫茶」。クリームソーダにホットケーキ、チョコレートパフェ、サンドウィッチにオムライス...。

まずは、おなかを満たす魅惑のメニューたちのお話から。

荻窪 珈里亜(かりあ)

 珈琲以外にもたくさんのメニューがある「純喫茶」の中でも、特に人気なのがクリームソーダ。目も覚めるような緑色をしたメロン味のシロップが混ぜられたソーダ水に浮かぶ真っ白なアイスクリーム、ちょこんとおめかしする赤いさくらんぼ、を想像する方が多いのではないでしょうか。しかし、「クリームソーダ」というのは実は、とても個性豊かな飲みものなのです。
 例えば、南国のきれいな海みたいな色をしたクリームソーダを飲みたくなったなら荻窪の「珈里亜」へ。線路沿いを歩きながら少し上を見て歩いていると視界に入る、琥珀色の灯りがともる白いバルコニーのある窓が目印です。階段を上がって2階へ。線路や行き交う人たちの流れを楽しめる窓際の席が空いていたならば、今日一日がそれだけで素晴らしいものになるでしょう。食事メニューと迷ってしまいますが、こちらでいつも注文するのはクリームソーダ。初めてそれを見た時、感動のあまり思わず声を上げてしまったことを覚えています。飲んでしまうのがもったいないような青色の美しいグラデーション越しに眺めるのは、窓の向こうでひっきりなしに過ぎていく電車たち。静かに過ごしているうちに慌ただしかった心のうちも落ち着いてきて、帰り道はほっとして穏やかな気持ちに。また、「クリームソーダは店で頂くもの」と思いこんでいた私に、マスターがその作り方を教えてくださったので、気になる方はご自宅で試してみるのはいかがでしょうか?

<クリームソーダの作り方(珈里亜のレシピ)> 
①グラスに1オンス(大さじ2杯(約30ml))のシロップを入れる。
②その上から氷を入れて、ソーダ水を注いだらぐるりとかきまわす。
(すぐにアイスクリームを乗せるとぶくぶくと泡だってしまうため)
③炭酸が落ち着いた頃、アイスクリームをまるく盛り付けたら出来上がり。
 お好みでさくらんぼや綺麗な色をした果物を入れて。

荻窪 珈里亜(かりあ)

珈里亜 南口店
〒167-0051 東京都杉並区杉並区荻窪5-27-6 中島第一ビル2F

銀座 ブリッヂ

 小腹がすいて軽く食べたいときに、思い浮かぶことが多いホットケーキ。ふかふかの生地にバターとたっぷりのシロップをかけたシンプルなものもよいですが、はっと驚くようなホットケーキに出会いたくなったら銀座「ブリッヂ」へ。当時、周辺に出版社や新聞社が多かった銀座の真ん中、西銀座デパートの地下にあるこのお店には、かつて、作家の向田邦子さんがよく通っていたらしく、入口側のボックス席にいつも座っていたそうです。こちらの名物メニューは、「お客さんがアッと驚くような表情をしているのを見るのが好き」というマスターの思いから生まれた「メロン・パンケーキ」。食べて美味しいことはもちろん、薄緑色のクリームで包まれた表面には生クリームによる白くて細い線で網目も再現されていて、まるで本物のメロンのようです。まだ湯気のたつ焼き立ての生地にナイフを入れるとパンケーキが3枚重ねられていて、それぞれの間にはメロン果肉と自家製メロンソースとアイスクリームがたっぷり。とてもボリュームがありますが、生地はしっとりしていて、果実の味をしっかり感じられるクリームも甘すぎないため、一人で完食するひとがほとんどです。良い意味で予想を裏切る斬新さですので、笑顔にさせたい誰かを連れてお出掛けするのはいかがでしょうか。

銀座 ブリッヂ


銀座 ブリッヂ
〒104-0061 東京都中央区銀座4-1 西銀座デパートB1F

虎ノ門 ヘッケルン

 つやつやぷるぷる、おとなも子どもも大好きなあまいもの、プリン。その美味しさはもちろん、一度訪れたならマスターの魅力に惹き込まれてしまう、虎ノ門「ヘッケルン」も訪れてほしいお店です。運ばれてきたプリンを見てまず驚くのはその大きさ。「他とは違うものを提供したい」と、創業当時から今のサイズになり、一般的なものの2.5倍もあるそうです。レストランで修行を積み「卵の手触りだけでその状態が分かる」という熟練した技術を持っているマスターの森さんは、火加減とカラメルの状態を一番大切にしていらっしゃると教えてくれました。そんな森さんがサイフォンで淹れられる自慢の珈琲は、プリンをより一層美味しくさせてくれます。「プリンがあまいからこそ、その後の一口が抜群に美味しいんだよ。珈琲は俺のガソリンだからな。」と森さんがおっしゃるように、珈琲とプリンを繰り返し口に運ぶことで、止まらない美味しさのループにはまってしまいます。濃厚でありながら後味はすっきり、苦味と酸味のバランスの良さが絶妙で、香りも豊かな珈琲の味わいは、創業当時から変わっていないモカとブラジルを主としたブレンドの配合によるもの。「珈琲も人生も、熱くなければつまんないでしょう!」と勢いの良い会話と溢れんばかりの笑顔で迎えられて、帰るころにはこちらまでパワーで満たされるのです。

虎ノ門 ヘッケルン


虎ノ門 ヘッケルン
〒105-0003 東京都港区西新橋1-20-11

新宿 珈琲西武

 どんなにあまいものがお好きな方でも、きっと驚いてしまうボリュームのパフェやプリンアラモードが食べられるのは新宿「珈琲西武」。1964年創業、都内随一の繁華街の中にあって、200席以上ある広さを保ちながらも、平日休日問わず常に満席であることが多い人気店です。自動ドアをくぐると視界に飛び込んでくるのは、バラの花が舞う絨毯や真紅のモケットチェアと、レジ上から吊り下げられた大きなシャンデリア。3階席は全席禁煙になっていて、打合せや会議にも使用される個室が併設されています。「非日常を提供する」というコンセプトにも納得の凝った内装や、黒と白で統一されたクラシカルな制服を身にまとい、店内を颯爽と動き回るウエイター、ウエイトレスたちなど、そこにいるだけで昭和の時代へタイムスリップできるような要素が満載です。
 噂のパフェは、チョコレート、ヨーグルト、バナナ、メロン、抹茶、フルーツから選べる多様さで、運ばれてきた時に周りからいくつもの視線が飛び込んでくるほど豪華な一品。グラスの底に入れられた懐かしさを誘う緑色のシロップ、その上にヨーグルト味のアイスクリームとふんだんなホイップクリーム、コーンフレークの上にはカラフルな果物たち。さらに突き刺さる2本のいちごポッキーとコーン付のアイスクリームが今にも倒れそうな角度で豪快にトッピングされているのです。そのフォトジェニックさは食べるのが惜しくなってしまうほど。もし、ステンドグラスの下の席に座れたならホットコーヒーもぜひ。色とりどりの美しい模様がカップの水面に映って見惚れてしまいます。

新宿 珈琲西武


新宿 珈琲西武
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-34-9 メトロ会館2階

鶯谷 デン

 軽食では物足りない、そんな気分のときには鶯谷まで足を延ばして「デン」へ。表に置かれたソフトクリームのオブジェが目印です。オリジナル配合のソフトクリームと並んで、看板メニューとして知られるのが、その名も「グラパン」。約一斤の食パンをくり抜き、大きな寸胴鍋で作られる具材たっぷりのホワイトソースを入れて、ガスでじっくりと焼いた贅沢な一品です。40年以上続くこの人気メニューは、まかないのグラタンを焼くための耐熱皿がなかったときに、代わりに大きな食パンをくりぬいて作ったことから生まれたそう。くりぬかれたパンの部分も一緒にサービスされるので、まずはそちらにたっぷりの具とソースを乗せて、その後はソースがこぼれないようにパンの壁を少しずつ崩しながら食べていくのがおすすめです。
 また、オリジナル配合のソフトクリームを使ったメニューとして人気のクリームソーダやプリンソフトも個性的。緑色のソーダ水の上にはソフトクリームが惜しみなく巻かれ、その上にコーンが逆さまに飾られているというダイナミックな盛り付けなのです。プリンは自家製で保存料などを使用していないため日持ちせず大量には作っていないそうなので、出会えたら嬉しいラッキーメニューです。近所の人たちはもちろん、海外の情報誌でも紹介されて国外からやって来る人も多いというグローバルな空間です。

鶯谷 デン


鶯谷 デン
〒110-0003 東京都台東区根岸3-3-18 メゾン根岸1階

さあ、あなたも「純喫茶」を旅してみませんか?

このように、いくつかご紹介しただけでもわくわくしてしまう「純喫茶」は、いわば日常のワンダーランド。まずは、お住まいの街の気になったお店へ。そのあとは足を延ばして遠くの街まで。日本全国いたるところにある「純喫茶」を旅してみませんか?

記事著者:難波里奈(なんば りな)

東京喫茶店研究所二代目所長。東京生まれ・東京育ち。
現在、日本橋に勤務の会社員でありながら、仕事帰りや休日にひたすら訪ねた純喫茶は2000軒以上に

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